【インタビュー】総合福祉施設かすみの里 様
三重県にある社会福祉法人永甲会特別養護老人ホームかすみの里は、特養、ショートステイ、居宅介護事業所、託児所、生活介護事業所、喫茶、売店、庭園、診療所が集ったひとつの小さな町のような施設です。 コンセプトは『共に楽しむ」』『介護を通じて関係性を紡ぐ』で取り組んでいます。
今回は、特別養護老人ホームの施設長補佐/施設ケアマネージャーの奥田史憲様から、昨年新しく導入した低価格の介護ICTを中心にIT活用についてお聞きしました。
目次
① 利用者と家族の為のICT⁉ かすみの里がお勧めする低価格ツールとは?
かすみの里様は、常に利用者様を最優先に考えたケアを実践されていますが、利用者様や家族様のQOL向上に繋がる特にお勧めのITツールがあれば教えて下さい。
ケアコラボという介護ICTがオススメです。
色々な機能が備わっているICTですが、当施設では主に①介護記録、②申し送り、③ケアプランを入力・管理するためのツールとして使用しています。
価格も低価格です。1年前から利用を開始しました。
ケアコラボを1年間利用して実感している効果を教えてください。
4つあります。1つ目はご家族とのミュニケーションの向上、2つ目は職員の技術やモチベーションの向上、3つ目は職種間のコミュニケーションの向上、そして4つ目は職員の記録業務の負荷軽減です。
1つ目の「ご家族とのコミュニケーションの向上」とは、どのようなものか具体的に教えて頂けますか?
ケアコラボは、家族さんとコミュニケーションがとれる介護記録ソフトです。家族さんがケアコラボ上に写真やメッセージを送ったりする事ができます。
先日も里人さん(かすみの里の利用者様の呼称)の家族さんが、「ひ孫が生まれました」と写真を送って下さり、それを里人さんと職員が一緒に見ながら「めっちゃかわいいですね」と盛り上がっていました。
コロナ禍なのもあり、大変重宝しています。
ケアコラボでご家族と交流している様子
それは素敵な機能ですね。
職員さんからご家族への情報伝達はどのようにしているのですか?
ケアコラボでは、職員からご家族にメッセージをお送りする事もできるのですが、基本的にやっているのは、介護記録を記入するだけです。家族さんがケアコラボの中にログインし、その介護記録を読んだり、メッセージを残して下さったりしています。
家族さんとの情報共有が、職員さんの負荷になっていないのは良いですね。
通常、家族さんは、里人さんの面会時の様子しか見る事ができません。
しかし、家族さんがケアコラボ上の介護記録を見る事ができると、職員と普段何をしているか、どのように過ごしているか等の素のご本人を知る事ができます。そういった点は、家族さんからとても好評を頂いています。
なるほど。ケアコラボがご家族とのコミュニケーションツールとして大活躍している事がよく分かりました。
ちなみにどのくらいのご家族が、実際にケアコラボにログインして、介護記録を読んだりメッセージを送ったりされていますか?
6割くらいの家族さんが使っています。操作が簡単なので、家族さんにちょっとフォローすれば年配の方でも使う事ができています。
利用していない家族さんは「かすみの里さんを信頼しているからを使わなくても大丈夫」とおっしゃる方が中心ですが、そのような家族さんに対しても、ケアコラボを導入した事で「かすみの里は、家族のためにここまでやってくれている」という良いイメージの醸成に繋がっていると実感しています。
家族さんに選択肢を増やせた事が良かったと思います。
2つ目の効果「職員の技術やモチベーションの向上」について具体的に教えて頂けますか?
職員は、家族さんとケアコラボで繋がるようになった事で、里人さんが私達と楽しく過ごしているという事を「写真」で伝えたいという想いが強くなりました。
その結果、職員の整容の意識や技術は確実に上がりました。
僕ら管理職が職員を指導するよりも、よっぽど効果があります(笑)
職員さんの普段ケアがご家族に見えるようになって、職員お一人おひとりの自発的な改善が生まれているのですね。
そうですね。また、ケアコラボは、他のユニットの介護記録も見る事ができます。通常ユニットケアの施設ですと、他のユニットの取り組みがあまり分からなかったりしますが、ケアコラボを通じて「他のユニットでは、今こんな事をやっているんだ!」と気付く職員もいます。また、その取り組みに「いいね」を押したりする事もできるので、いいねを押された側は、嬉しくてモチベーションが上がり、更に良い取り組みをやろうと頑張るというサイクルが生まれています。
ユニット間のナレッジ共有や職員のモチベーションアップにも繋がっているのですね!
整容技術を磨くための研修を開催
ボランティアによるお化粧をお願いした事も
3つ目の効果「職種間のコミュニケーションの向上」について具体的に教えて頂けますか?
当施設は、ケアコラボを導入した事で、介護職と看護職のコミュニケーションが良くなったと感じています。
当施設の場合、4年前と比べると入院患者数が3分の1に減らす事ができているのですが、これは看護師のリーダーシップに加え、看護師と介護士の連携が良くなっている点が改善した理由の1つです。
3分の1は凄いですね!
ケアコラボを使うと、看護師はわざわざ里人さんと介護職員が居る場所に都度移動しなくとも、PCやスマホ上で里人さん1人ひとりの状態の変化を写真付きで把握する事ができます。そのため、少人数の看護職が、より効率よく介護職とコミュニケーションがとれるようになりました。
4つ目の「職員の記録業務の改善」とは、具体的にどのような効果が出ているのですか?
ケアコラボ導入前は、別の介護システムを使ってパソコンから介護記録を入力していました。その頃は、1人の職員が、記録業務に1日に40分~60分も取られていました。また時間をかけて書いた介護記録を振り返る機会もほとんど無い状態でした。
しかし、ケアコラボに切り替えて、同時に記録項目も見直した事で、記録にかかる所要時間が1人1日20分以上も削減する事に成功しました。
介護職員がスマホで介護記録を入力している様子
看護師が看護師室で記録を確認している様子
すごい効果ですね。
ちなみにケアコラボの導入・運用費用は、どのくらいかかっているのですか?
ケアコラボを利用する職員1人につき月額800円です。
当施設では、ケアコラボを利用する職員が60人なので、月48,000円かかっています。
ちなみに初期設定費用はゼロ円です。
とても低コストで導入・運用できるツールなのですね。
費用対効果は成立していますか?
先ほどお伝えした通り、ケアコラボ検討段階で「職員の記録業務の内容」や「所要時間」を分析し、ケアコラボを導入すると職員1人につき1日20分の時短に繋がる事を把握しました。
なるほど。
1人1日20分の時短は、施設全体に換算すると1日10時間の改善効果にあたり、職員1人分の労働力に該当します。
月48,000円を投資で、職員1人分の労働力が得られる訳ですから、ROI(費用対効果)は十分成立させる事ができています。
しかも、実際は、想定していなかった「申し送り業務」も時短できたので、当初想定していたよりも更に改善させる事ができました。
ケアコラボは非常にコストパフォーマンスが高いのですね。
奥田さんが法人幹部から稟議を得たROI試算の資料
② オンライン面会や会議だけじゃもったいない⁉ ZOOMの様々な活用法
かすみの里様では、Zoomも積極的にお使いになられているとお聞きしていますが、具体的にはどのようにお使いになっていますか?
家族さんとの面会、採用面接、施設見学、職員会議、他施設との交流など様々な用途に使用しています。
ちなみに、あしたは土曜日ですが、施設長が自宅からオンラインで採用面接を実施すると言っていました。
採用面接を週末にご自宅からオンラインで出来ようになった事は、施設長にとっても求職者にとってもWin-winですね。
ちなみに、全ての採用活動をオンラインで行うと、入職後にギャップがあったりなどの問題が生じるのでは?と懸念しますが、その辺りはいかがでしょうか?
特にこれまでそのような問題に遭遇した事はありません。求職者には、施設長が面接する前に、僕達の取り組みもオンラインでしっかりと伝えています。また同時に施設内をオンラインで見学もしてもらっているので、施設側の事は十分に伝えられていると感じます。
なるほど。
他方、求職者側は、ご自宅から繋ぐので、施設に来て面接している時よりもリラックスしていて素の姿が出た状態で面接しているように感じます。
その結果、採用のミスマッチの軽減に繋がっていると思います。
ただ、オンライン面接の唯一の課題は、臭いを体感してもらえない点です。当施設は「施設独特の臭いがない」という点も自慢の1つなので (笑)
とても勉強になります。
オンライン採用面接の様子
「他施設とのZoomを使った交流」というのは、具体的にはどのような事をされていますか?
かすみの里は三重県にある特養ですが、先日は東京の特養駒場苑さん、兵庫の特養やまゆりの里さんとZoomを繋いで情報交換させて頂きました。
異なる県の方と交流されているのですね。
そうですね。駒場苑さんは、先日職員の1人がコロナの陽性者となったのですが、利用者さんや他の職員さんを1人も感染させる事なく被害を最小限に留められていたので、その成功のポイントを教えて頂きました。
また、やまゆりの里さんは、インスタを始めとしたSNS活用が大変上手なので、その活用のノウハウについて教えて頂きました。
特養駒場苑(東京)とZoomで交流
2施設との交流は、どのように始まったのですか?
私のほうからSNSでメッセージを送り、Zoom面談のお時間を頂きました。
なるほど。最先端の取り組みをしている施設に対してSNSで連絡を入れて、Zoomで面談する時間を頂いているのですね。
地理的に訪問する事が難しい施設であっても、Zoomなら比較的簡単に面談をセットできるので良いですね。
そうですね。
他にはZoomをどのように活用していますか?
全国各地の特養の勤務者が集まって、ZoomとFacebookでライブ発信するという活動に参加させて頂きました。
駒場苑の職員さんが「社会に、特養の現場のポジティブな情報を発信したい」という発案からスタートしました。
Facebook LIVEの様子
素敵なお取組みですね!
ありがとうございます。「もっと発信力をあげなければ・・・」と感じていた時期だったので、とても良いタイミングでした。
発信力をあげようとされていたのですね。
はい。先日、神戸の21歳の女性が、仕事と介護の両立に疲れ果てて、要介護4の祖母を殺害してしまう事件がありました。そのニュースを見て、私は「もしその女性と家族さんが、かすみの里の事を知っていて『施設に入れる事は悪いことじゃない。施設の中で楽しく過ごす事もできるんだよ』と思ってくれていたら、女性をそこまで追い込む事はなかったのでは?」と感じていました。
なるほど。
ちょうどその頃、ユニットリーダーの一人の野原が、「自分の親から『自分が要介護になっても施設に入れないでね』と言われた。自分がこの仕事をしていて、施設の良いところをこれだけたくさん話してきたのにも関わらず、やっぱり嫌なんだ・・・。それを変えたい!」と言っていました。そういった自身や職員の想いから、Facebookでのライブに参加する事にしました。
みなさんの熱い想いに、とても感銘を受けました。
③ IT活用も利用者ファースト⁉ かすみの里が大切にしているIT化のポイント
他に使用しているICTや介護ロボットはありますか?
眠りSCANを導入しています。
眠りSCANを導入する施設は全国的にも増加傾向ですね。
眠りSCAN活用時に心がけている事や、導入後の効果を教えてください。
眠りSCANを使う事で、利用者さんが、どのようなタイミングで起きてトイレにいきたくなるのかが分かるようになりました。その結果、夜間の定時巡視をせずに利用者さんの良眠を優先する事ができるようになりました。
なるほど。
ただ職員には、「眠りSCANは離床センサーではない」という事を何度も何度も言い続けています。離床センサーとして使ってしまうと、転倒を避けるためのリスク対応の道具として考えてしまい、眠りSCANの画面にアラートが出ると、急いで居室に向かい、ノックもせずに居室に入って声をかけるという使い方になってしまう為です。
便利な道具の正しい使い方を職員に意識付けされているのですね。
④ これからIT化を進める介護事業所へ向けたメッセージ
これからIT化を進めようとしている介護事業者へ向けてひと言メッセージを頂けますか?
一番大切なのは、職員さんと入居者さんの声に耳を傾けながら、ICTや介護ロボットを選定する事だと思います。
なぜなら、良いITツールを見つけるヒントは、暮らしの場所と現場の職員の声にあるからです。それを丁寧に聴いた上で、何が適しているのかをまず考える事が必要です。他施設の管理職の話だけを聞いて新しいものを導入してしまうと、自施設の実態と合っていない投資となる恐れがあります。実際、導入したものの、現場では使い物になっていないという施設の話もよくお聞きします。
確かにそうですね。
また、管理者が「新しい介護ロボットを入れたから後は現場でやっといて」では絶対に上手くいきません。
なぜなら、介護ロボットやICTを導入する際は、ただ導入するだけでなく、従来のオペレーションの見直しも必須だからです。例えば眠りSCANを導入しても、0時と3時の巡視を従来と同じように実施していたら、導入効果は得られません。施設が良くするために入れるのですから、入れる事が目的とならないように気をつける事が必要です。
そのためにも、現場の声を丁寧に聴く事が最も重要だと思います。
ありがとうございました。
奥田 史憲
施設長補佐・施設ケアマネージャー
プロフィール
三重県四日市市にある特別養護老人ホームかすみの里で施設長補佐と施設ケアマネジャーとして勤務しています。『共に楽しむ』『介護を通じて関係性を紡ぐ』というコンセプトを掲げ、職員も里人さんも共に居心地の良い環境作りに取り組んでいます。