【インタビュー】健育会ひまわり在宅サポート
宮城県東部に訪問看護や訪問介護、居宅介護支援など計11の事業所を展開している医療法人社団健育会 ひまわり在宅サポートグループ。
今回は、グループを統括している若林部長、訪問介護の事務職員の阿佐野さん、訪問看護スタッフの横山さんから、現在積極的に進めているICT活用についてお話をお聞きした。
目次
①ICTツール92個を調査!?特にお勧めの無料で使えるツール2選
お勧め1:LINE WORKS
ひまわり在宅サポートグループ様では2018年以降、計92件のITツールをご検討されて、新たに8件を導入されたとお聞きしています。その中で特におススメのITツールがあれば教えて頂けますか?
LINE WORKSです。無料版でもかなり多くの機能を使うことができて、介護事業者は絶対に使った方が良いツールだと思います。グループ内が1つのツールで繋がることによってコミュニケーションが格段に上がりました。
無料でも使えるのは良いですね!
LINE WORKSは、具体的にはどのようなICTツールなのですか?
LINE WORKSは、様々な機能を持ったICTツールなのですが、私たちは主に3つの使い方をしています。
1つ目は、社内の情報共有と情報発信です。以前は、職員が日報を記入する場合、わざわざ事務所に来て記入していたのですが、現在は全てLINE WORKS上で場所も時間も問わずに入力と閲覧が可能な状態を作っています。またグループ内で連絡事項があるときは、全員へメッセージを一斉に送信しています。
なるほど。
わざわざ事務所に来てやっていた業務が外出先できるようになったのですね。
2つ目は、社外とのやりとりです。以前は、新規利用者様の情報のやりとりはファックスや直接お会いして行う事が多かったのですが、現在はLINEWORKSを通じて情報が直接受け入れ担当のところに届く状態を作っています。また病院の連携室との入退院の調整や、在宅診療クリニックのオンラインカンファレンス、看護学校の先生との実習の受け入れに関する報告連絡、外部コンサルの方との連絡などにも使用しています。お話が困難な利用者さんとLINEWORKSを通じて直接やりとりしている職員もいます。
医療機関だけでなく、看護学校やご利用者とも繋がっているのですね。
LINEWORKSを活用している様子
3つ目は、会議の議事録です。以前は、議事録を作成した後、紙様式で印刷し、職員全員の確認印の回覧して押していたのですが、現在は、LINE WORKSのノートのコメント機能を使って会議禄を全て電子化しています。
とても便利ですね。
LINE WORKSの検討を始めたきっかけを教えてください。
医療・介護の現場では、LINEが現場に浸透している事がよくあると思いますが、当グループでも現場ではLINEがよく使われていました。
しかし、厚労省の「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン」のQ&Aに記載されている「医療情報連携において、SNS を利用する際に気を付けるべき事項」を読むと、LINEは「パブリックSNS」に分類され、機微な情報を連携するのは不適切と記載されています。ただ、組織全体でチャットツールを運用すると、格段に利便性が高まるっていうのは分かっていたので、ガイドラインで使用が認めている「プライベートSNS」に分類されるビジネスチャットを入れていこう、という方針になったのがスタートラインです。
医療機関・介護事業所では、業務に通常のLINEを使用してはいけないのですね。
使用が認められているビジネスチャットの中で、LINE WORKSを採用したポイントを教えてください。
1番のポイントは、LINEとLINEWORKSのインターフェイスがほぼ同じであるためです。当社の職員は、50代が35名、60代が13名、70代が1名いる事もあって、年配の職員も馴染みが深いツールが良いだろうと考えていました。
LINEWORKS以外にもチャットワークやSlackなどのビジネスチャットを試しましたが、実際に外でスマートフォンで使ってみると、高齢な職員にとっては使い易さの面からLINE WORKSが最適でした。
LINEとLINEWORKSの画面の比較 レイアウトはほぼ同じ。
LINEWORKSを導入してみて、実感している効果を教えて下さい。
当法人には看護小規模多機能型居宅介護がありますが、LINEWORKSによって、外部との連携が早くなった事で、周りからの評判が良くなり、収入が年間約700万円プラスになりました。外部に対する顧客評価アンケートでも「ひまわり在宅さんは、こっちが困っている時にすぐ応えてくれる」という評価が非常に高まっています。その対応速度を実現しているのは、間違いなくLINEWORKSです。
収入に大きなインパクトを与えたのですね。
そうですね。
加えて、法人の方針やお知らせは、今までは発信しても伝言ゲームになってしまい、なかなか末端の職員まで浸透させる事が難しいと感じていました。しかし、今はLINEWORKSで全体方針やお知らせを一斉に直接発信できるようになったので、全職員に情報がかなり伝わるようになりました。心理的安全性も各段に向上しました。
なるほど。
訪問看護スタッフの目線から見て実感している効果はありますか?
たくさんありますが、LINEWOKSは、やりとり記録に残っているの「言った」「言わない」が原因のトラブルが無くなりました。またコミュニケーションが早くなったので、自身が問題や悩みがある時に、LINEWORKSで投げかけると早ければものの1分2分で解決することが頻繁に起こるようになりました。
また電話だと「この時間帯にかけると忙しいかな?」と思って躊躇する事がありますが、LINEWORKSは相手の繁忙状況を気にせずに連絡できるのでコミュニケーションがすごく良くなったと実感しています。
なるほど。
事務スタッフの目線からはいかがですか?
今までは実地指導対策などで「紙の議事録に判子を押す」という作業をしなければいけなかったのが、LINEWORKSで議事録作成と確認ができるので、実地指導対策が大きく効率化されました。
実地指導対策の負荷まで軽減するのですね。
LINEWORKSで作成した議事録と押印代わりの確認コメント
事務所の外でも使用できるICTツールを導入する際、よく議論に出るのがセキュリティ対策ですが、何か意識した事や対策した事はありますか?
個人情報の流出については、例えば職員がスマホを紛失した時に、LINEWORKSは、LINEと異なりアカウントをこちら側でいつでも止める事ができるので情報漏洩リスクを軽減できるいうメリットがあります。また、例えば職員の中に悪いことをしている人が居たとしても、LINEWORKSは全職員の全ての操作ログが残っているので、情報の流出者や流出先の特定も可能です。LINEWORKSにはそういったセキュリティ対策機能が備わっている事を職員全員に周知していきました。
個人所有のスマートフォンを業務に活用している(BYOD=Bring Your Own Device)との事ですが、通信料の負担は誰がしていますか?
訪問看護の職員にはiPadを貸与していますが、訪問介護や看護小規模多機能の職員には貸与しておらず、個人のスマートフォンでLINEWORKSを使用しています。通信料は支給していません。理由は、実際に1か月どのぐらいの通信量がかかるのかを調査をしたところ、フル活用している人でざっくり100MB程度に収まっていた為です。スマホを少ないギガ数で契約している人でも2GB以上で契約していますし、また当然通信料無制限で契約している職員もいるので、実使用量と公平感を考慮し、補助無しが望ましいと判断しました。
お勧め2:Googleスプレッドシート
LINE WORKS以外のおすすめのITツールを教えて下さい。
Googleが無料で提供している各種ツールは、お勧めです。グーグルは、マイクロソフトのエクセルとよく似た「Googleスプレッドシート」というツールを無料で提供しています。これは、インターネット上で利用するツールで、1つのファイルに複数人が同時にアクセスし、共同編集や共同作業を行う事ができます。
無料で使えるのは良いですね。
具体的にはどのように使っていますか?
当グループでは、Googleスプレッドシートを用いて訪問看護の行程表を作成しています。誰がどの時間にどの利用者に入っているのかがまず分かるようになっていて、同時にそれらを統計したデータが別シートで見られるようにしています。
Googleスプレッドシートで作成した行程管理表。外出先で編集可能。
Googleスプレッドシートを導入して実感している効果を教えて頂けますか?
外出先で編集ができるので、すきま時間が有効活用できるようになりました。また事務所に帰ってくる必要性が減ったので、導入前と比較して職員の直行直帰が約2倍に増えました。コロナの影響で事務所にできるだけ行かないというひまわり在宅サポートの方針の実現にGoogleスプレッドシートが貢献しました。
更に統計データを見られるようになった事で、自ら数字を見て、課題に気付き、自分たちで考える自律型組織になってきているのを実感します。例えばフルタイムで働いているのに稼働率が7割しか行ってないというのは、なぜだろう?稼働率を回復するためにどういうふうに動いたらいいだろう?という事を上司に言われなくても自分たちで考えられるようになりつつあります。
② ご利用者の表彰式も!? オンライン会議ツールの多様な活用法
オンライン会議ツールを使った「オンライン表彰式」の様子
コロナをきっかけに、ZOOMなどの「オンライン会議ツール」が急速に普及しましたが、ひまわり在宅サポート様ではオンライン会議ツールをどのように使っていますか?
当法人ではオンライン会議や、朝礼、採用面接、外部施設との連携の相談、共同勉強会などにオンライン会議ツールを使用しています。元々、各事務所にテレビ備え付けタイプのテレビ会議システムがあったのですが、オンライン会議ツールは、職員は場所やデバイスに関係なくどこからでも会議に参加できるため、そちらに切り替えました。
またひまわり川柳という企画をやっているのですが、受賞したご利用者の在宅オンライン会議ツールで接続し、オンライン表彰式も行いました。受賞者の方にも喜んで頂きながら、その様子を見て私たちも嬉しく感じました。
訪問看護の現場目線では、緊急対応などで急遽会議に参加できなくなった時、車中から会議に接続して耳だけ聞いている状態を作る事ができるのは大変便利だと感じています。
③ 70代でも大丈夫!?ICT導入を成功に導く”3つのポイント“
ひまわり在宅サポートが2018年以降に導入したITツール類
高齢の職員が多数いる職場でICTツールを導入するポイントを教えてください。
3点あります。
1点目は、操作が簡単でインターフェイスが分かり易いもの導入するという点です。その際、導入を推進する人間が、高齢の職員の気持ちになって実際に使ってみる事が大切です。私の場合は、「あの人が一番使えなさそう」というある1人の職員を想像して、その人になった気持ちで使ってみて、使えそうなツールかどうかを導入の判断基準の1つとしています。
なるほど。確かに特定の職員さんを想像しながら試すと気付く事が多そうですね。
2点目は、体制の整備です。高齢の職員1人1人をしっかりフォローできるようにする事が大切です。当グループでは、各事業所の代表者で構成するICT委員会を設置し、ICT委員が中心となって各事業所の職員のICT活用をフォローしています。加えて、導入するICT別に、発信意欲があって、そのICTに関心が高い人を「推進リーダー」に任命し、自分の思うように推進してもらう形を取っています。今ここにいる阿佐野や横山がまさにその人たちです。阿佐野の場合は、高齢の職員が多い訪問介護の事務ですので、現場の苦労を一番聞いていて、またICTに関する興味も高かった事から、彼女をLINEWORKSの推進リーダーに任命しました。横山は、プライベートでも様々なICTに精通していたので、グーグルスプレッドシートの推進リーダーになって貰いました。
最後3点目は、ICTを使用する職員の動機づけです。使用する職員に対して自分たちにとってのメリットを繰り返し説明する事が大切です。また世の中の流れから、例えば5Gやデジタル庁の設立、FAX&判子廃止などのトレンドを繰り返し職員に伝え、「自分たちはITを使っていく環境にいるんだ」という事をとにかく日々言い続けるようにしています。
ICTを組織全体で活用するにあたり、組織全体の責任者である若林部長が心がけている事を教えて下さい。
私は、いまでこそ経営責任者という立場ですが、元々は訪問介護ヘルパーや障害者支援事業所の就労支援員をやっていました。現場に居た頃、「もっとこうだったら良いのになあ」という悔しい思いをしたことがたくさんありました。なので、ICTに関してとにかく現場目線を忘れないという事を大切にしています。またトップダウンでただやれというのではなく「一緒にやろうよ」っていう姿勢で取り組む事を大切にしています。それから、ICTを導入したら当然自分自身がそのICTをめちゃくちゃ使うという事を心がけています。導入した後、「あとは現場でよろしく」となりがちですが、現場任せにするのではなく、自分も一緒になって積極的に使う事を大切にしています。
④ 今後の展望
ICT活用に関する「今後の展望」を教えてください。
私は現在LINEWORKSをベースに仕事をして、その便利さを大変実感しているので、今後はもっと外部の関係機関にLINEWORKSの使用を促して、より効果的に外部と連携できる状態を目指したいと思っています。LINEと同じくらいLINEWORKSが医療・介護業界に普及して、みんながLINEWORKSを通じて支えあっている環境になるといいなと思っています。
これからICTをもっと活用しようと思っている介護事業所の皆様に、一言メッセージをお願いします。
LINEWORKSは、無料の初期設定支援やオンラインセミナーなど、初期のサポート体制が整っています。また導入後の無料の個別カウンセリングもやってくれます。そのため、まずはLINEWORKSの「無料版」を試してみる事をお勧めします。
ICTツールを導入する際、最初から100%の従業員の皆さんがいいねっていうことは、恐らくありません。しかし、使い続けるに従って、いいねって言ってくれる人たちが確実に増えていくのも事実です。グーグルスプレッドシートの時では、3か月ぐらい経って約8割から9割の従業員の皆さんが、導入して良かったねという反応を示してくれるようになりました。経験曲線が効くまで時間がかかりますので、ぜひ導入する際は、我慢強く使い続けてほしいと思います。
今後社会全体がどうなっていくか分からない状況に突入しています。経営者は、色んな対応場面を想像しながらICTを活用する「想像力」が必要で、その想像力が組織の命運を決めると考えています。
色んな経営者の方がいらっしゃると思いますが、ICTが「何だかよく分からない」「とりあえず他がやってるから」という感じで考えている経営者が居たとしたら、これは非常に危険なことだなと思っています。なので、とにかくまずは経営者自身がICTを使ってみましょう!という事をお伝えしたいと思います。
これから先、介護事業所がICTを活用しないという選択肢はないと思います。
ありがとうございました。
若林陽盛
プロフィール
1978(昭和53)年生まれ、大学卒業後、ミュージシャンを目指す傍らヘルパー、障がい者就労支援員として従事。その後、福祉施設経営コンサルタント、有料老人ホーム管理者、病院事務部長を経て2018(平成30)年より現職。社会福祉士。
阿佐野佳奈
プロフィール
1978(昭和53)年生まれ、大学卒業後、塗料メーカー他、様々な業界の事務に従事。2015年より現職、訪問介護の請求担当。2019年12月よりLINEWORKSアンバサダープログラムに参加。
横山翼
プロフィール
1991(平成3)年生まれ、大学卒業後、石巻市に移住し病院で勤務する傍らソフト面の復興支援を実践。その後、通所介護事業を経験し、2019年より現職。現職で理学療法士として従事する傍ら2020年に一般社団法人Hito Rehaを設立。