【インタビュー】超低コストIT活用成功事例

「7つのゼロ」などの先進的なケアで有名な駒場苑は、コロナ禍に実質ゼロ円でオンライン面会をスタート。コストを抑制できた秘訣や、オンライン面会の課題や解決方法について坂野施設長からお聞きした。

①オンライン面会導入時にかかった費用

費用ゼロ円でオンライン面会をスタート!

タダカヨ佐藤

今回、オンライン面会を始めるにあたり、全フロアにWi-Fi(無線のインターネット回線)を整備したり、ノートパソコンを購入したとお聞きしていますが、費用がトータルで幾らかかったか教えていただけますか?

坂野施設長

合計で22万8千円かかりましたが、補助金で全額カバーできたので、施設の持ち出しはゼロ円です。

内訳ですが、まずWi-Fiは1台8千円のWi-Fiルーター(無線インターネットの接続用通信機器)を6台購入し計4万8千円かかりました。購入したWi-Fiルーターは、5階建ての駒場苑の各階に1台置き、またグループホームに1台設置しました。一般的には高齢者施設にWi-Fiを導入すると百万円以上のコストがかかり補助金では全然賄えなくなりますが、駒場苑では家庭用のWi-Fiを採用したため安く抑える事ができました。現状、家庭用でも全く問題なく使えています。加えて、オンライン面会用のノートパソコンは、1台9万円のものを2台購入し計18万円かかりました。しかし、既にお伝えした通り、補助金で全額カバーできましたので、施設の持ち出しはゼロ円です。

タダカヨ佐藤

家庭用のWi-Fiと補助金利用で施設の持ち出しをゼロ円に抑えたというのは、大変素晴らしいですね。補助金は、どちらの団体に補助して頂きましたか?

坂野施設長

補助金は2団体から補助して頂きました。

1つは、目黒区の社会福祉協議会です。

例年、ご利用者が地域の方と交流するための補助金を申請していたのですが、今年はコロナの影響で地域交流の行事を開催する事ができなくなると想定しました。そのため社協の方に連絡を取って、「正直今年は地域に開かれた行事を開催するのは難しい。現状は地域との交流どころか、ご家族との交流さえ困難になっている。そのため、まずはご家族と交流するためのオンライン面会を始めたいので、補助金はオンライン面会の導入費用に使わせて頂けないか?」とご相談したところ、社協の方が検討して下さって「今回はこのような状況なのでぜひオンライン面会の導入費用にお使い下さい」と回答を頂きました。助成額は、16万5千円です。

タダカヨ佐藤

地域交流を目的とした補助金をオンライン面会に活用させて頂いたのですね。

坂野施設長

そうです。そして2つ目は、愛恵福祉支援財団です。

インターネットや施設長間の繋がりでコロナに関連する助成金の情報を集めていた際、同財団が社会福祉施設に対して緊急助成を始めるという情報をキャッチしたので、申請させて頂きました。こちらの助成金は、オンライン面会の導入費用(目黒区社協の助成金の不足分)と、訪問介護事業所のヘルパーさんやケアマネさんが外出先でノートパソコンとポケットWi-Fiを使って記録できるようにして事業所に集まる頻度を減らすための投資に充てました。助成額は50万円です。

両団体とも、コロナ禍の社会福祉施設の現状を理解し協力してくださったので大変助かりました。

タダカヨ佐藤

コロナ禍の介護事業所を支援する団体が増えている事はありがたいですね。また急増している「助成金」の情報をしっかりとキャッチする事が大切ですね。

助成金情報の収集に役立つサイト

日本財団が運営する公益活動団体向け助成制度のデータベースです。主に全国規模で申請募集を行っている助成制度が載っています。


助成財団センターが管理する助成金データベースです。助成プログラム約3,000件、助成団体約1,600件が載っています。

②オンライン面会の”準備段階”の課題と対策

家庭用Wi-Fiは”設置位置”が重要!ズームの操作は意外と簡単!

タダカヨ佐藤

オンライン面会を始めようと思ったきっかけや経緯を教えて頂けますか?

坂野施設長

やっぱり非常事態宣言ですね

それまでは、ご家族は感染対策しながら面会を継続していたのですが、この辺りからもう完全に面会なしにせざるを得ないかなっていうところがありました。ただご家族もやっぱり会いたいし、ご利用者も外出もなかなかできず中で過ごす時間が長くなってストレスを抱えていましたので、顔を見て話せる方法がないかなあと色々調べていました。その時に、オンライン面会というツールを発見して始める事にしました。

タダカヨ佐藤

オンライン面会の”準備段階”で遭遇した課題はありましたか?

坂野施設長

費用ですね。

検討当初は、先ほどお伝えしたような家庭用のWi-Fiを使用するという発想はなくて、業務用のWi-Fiについて調べていました。しかし、いくら調べても業務用のWi-Fiでは百万円以上かかるという情報しか見つかりませんでした。ただでさえコロナの影響でデイサービスのご利用者が減り、経営的に打撃を受けている状況下でそういった多額の投資をするっていうのはかなり困難でした。恐らく、未だオンライン面会を始めていない施設は、コスト面が原因でスタート出来ていないところが多いのではないかと思います。

駒場苑の場合は、試行錯誤している過程で、試しに私の家にあった私物のWi-Fiルーターを施設に持ってきて繋いでみたら、上手くいきました。

タダカヨ佐藤

業務用だと百万円以上かかるWi-Fiの整備が、わずか4万8千円に抑えられた大きな成果ですね。費用面の他にも、何か遭遇された課題はありましたか?

坂野施設長

無料のウェブ会議アプリ「ズーム」に対する慣れですね。当初は、私自身もズームを使った事が無かったので、実際にどのように操作するのか分かっていませんでした。そのため、まず事務所内でズームをやってみて練習する事にしたのですが、始めはパソコンでやるのとスマホとやるのとで操作が違っているなどの戸惑いがありました。今ならもう簡単なことですけど、その頃は全く無知な状態でしたので私と相談員と主任で「ちょっと三人で繋げてみようか」といいながら職場で練習しながら覚えました。

タダカヨ佐藤

オンライン面会でズームを使いこなせるようになる迄にどのくらいの時間がかかりましたか?

坂野施設長

いったん私が全て完全に覚えようと決めたのですが、7-8回くらい試しているうちに自然と出来るようになりましたもともとズーム自体がとても使いやすいものなので、いざ使ってみると意外とシンプルに使えましたいまのご時世にこのツールが世の中にある事がありがたいと感じました。

タダカヨ佐藤

家庭用Wi-Fiを活用するポイントを教えて頂けますか?

坂野施設長

家庭用のWi-Fiは、簡単に言うと距離によってインターネットが不安定になります。最初、普段パソコンをしている場所にWi-Fiルーターを設置したのですが、フロアの端まで電波が届いていないことが分かりました。そのため、よりフロアの中心部のほうに設置できるようにWi-Fiルーターの設置位置を試行錯誤しました。業務用のWi-Fiなら電波もよいのでこのような問題は発生しないと思いますが、コストを抑えて家庭用Wi-Fiルーターを採用した駒場苑には、こういった工夫が必要でした。駒場苑は比較的施設のフロアが狭いのですが、広い施設だと更に色々と実験してみる必要があると思います。ただこのひと手間をかけるだけで、コストを大幅に抑えられるで、業務用ではなく家庭用を導入して良かったと思っています

各階のWi-Fiルーター設置位置と今回購入したバッファロー製のWi-Fiルーター

③オンライン面会”開始後”の課題と対策

運用成功のカギは、現場の負荷軽減とご家族への活用サポート

タダカヨ佐藤

オンライン面会は、①自宅から繋ぐパターンと②施設に来て頂いて1階から繋ぐパターン、の2パターンがあると思いますが、駒場苑様はどちらの運用ですか?

坂野施設長

両方行っています。初めは、ご自宅と繋ぐパターンのみを実施していましたが、希望者が思っていたより少なくて、「会いたいはずなのに何でだろう?」と疑問に思っていると、やっぱりズームの操作とご家族のインターネット設備がネックになっている事が分かりました。そこで今はご家族の状況別に3パターンに分けて対応しています

1つ目は、ご自宅でズームを使うための設備が整っていて、ご家族がズームの操作方法を理解しているパターンこの場合は、ご自宅から繋いで頂きます。

2つ目は、ご自宅にズームを使うための設備が整っていないパターンこの場合は、この場合は、駒場苑に来て頂き、施設の1階に設けたオンライン面会室からフロアのご利用者と繋ぎます。

3つ目は、ご自宅にズームを使うための設備が揃っているものの、ズームの操作方法が分からないパターンこの場合は、一度駒場苑に来ていただいて、スマホにズームをインストールするところから職員と一緒にやって、使い方を覚えて頂いています。その際に、最後はフロアのご利用者と繋げて1回目のオンライン面会までして頂いています。

タダカヨ佐藤

ご家族それぞれの状況に配慮されている点が、とても素晴らしいですね。

坂野施設長

このように3パターンに分けるようになってから、オンライン面会の希望者が増えました。やり方を聞きたくても聞けなかった状態の方がたくさん居たのだと思います。また駒場苑で操作方法を教える機会を設けるようになって、改めて「ご家族にはスマホの操作が苦手な方が多い」という印象を持ちました。使っているスマホも簡単スマホや、らくらくフォンだったりします。最初「らくらくフォンでもズームって使えるのかな?」と思っていたのですが、やってみたら使えたので良かったです。

8月現在、家から繋ぐ方が6割、駒場苑に来て説明を受ける方が2割、受付から繋ぐ方が2割くらいですが、だんだん皆さんやり方を覚えていくので、結果的に家から繋ぐ人が更に増えていくと予想しています。

【ご面会者用】オンライン面会マニュアル

タダカヨは、オンライン面会を希望されるご家族向けに、ZOOM操作マニュアルを無償公開しています。


タダカヨ佐藤

オンライン面会に関連する業務は、どなたが担当していますか?

坂野施設長

駒場苑ではオンライン面会を始める段階から、事務所の人間が担当すると決めていました。今は相談員と特養主任を中心に私と事務員2名を含めた5名で対応しています。現場の職員さんがやるとなるとやっぱり大変なので、オンライン面会の対応に時間を割くよりご利用者との関わりに時間を使ってもらいたいと思っています。

タダカヨ佐藤

オンライン面会の頻度や管理方法、ご利用者の接続場所について教えて頂けますか?

坂野施設長

頻度は8月でいうと15日間で10組くらいです。オンライン面会用の予約表を作って管理しています。面会時間は特に上限時間を設けていません。予約表では30分枠で管理しており、次の方が控えている場合は30分以内でという事にしていますが、次の方がいなければ時間を気にせず続けて頂いています。ただ大体30分程度で終わりになる事が多く、自身でコミュニケーションが取れない方の場合だと15分くらいで終わる事もあります。 接続場所は、ご利用者が居室でつなげられる方は居室から繋いでいます職員さんが一緒でないとコミュニケーションが難しい方の場合は、共有スペースから職員さんと一緒にいる状態で話したりする事もあります。

駒場苑のオンライン面会予約表。1つのセルの中に、「予約者」と「使用するノートパソコンのナンバー」を記載して運用している。
タダカヨ佐藤

未だオンライン面会を始めていない施設にお話しをお聞きすると、費用面に加えて「オンライン面会による業務量の増加」がネックとなっている施設が多いようですが、駒場苑様では担当者にはどのように動機付けしたり、業務をトレードオフしましたか?

坂野施設長

正直、駒場苑には、「オンライン面会を始めよう」といって嫌がる人はいませんそもそもご家族と会わせてあげたいっていう事も、事務所の中でみんなで話し合っていた事なので。仕事が増えるという感覚よりも、とにかくご家族と繋いであげたいという想いで事務所全体が一枚岩になっていました。また、業務量の増加については、駒場苑の場合、介護職の負担を減らすために、行事の企画や準備は全部事務所の職員がやっています。現在はコロナの影響で行事自体が少なくて業務量が減っているので、結果的にオンライン面会を行うための業務のトレードオフが出来ています

タダカヨ佐藤

他の施設ではどのように担当職員を動機付けするのがよいと思いますか?

坂野施設長

その辺は日頃から風土を作れているかどうかが大きいのかなと思います。元々「仕事が増えて面倒くせぇ」と感じる雰囲気になっているか、それとも「仕事は増えるけど面白いからやってみよう」という雰囲気になっているのかが重要です。あとは、オンライン面会に関するリスク的な部分を気にする方がいる場合は、「オンライン面会をやらないほうか感染症を含めたリスクが高まるので、リスクを抑えるためにオンライン面会をやったほうが良い」と伝えると思います。

タダカヨ佐藤

オンライン面会をやり始めて実感している効果を教えて頂けますか?

坂野施設長

顔を見て話しができる点は、ご家族の満足度がかなり高いと感じています。「顔が見れただけでもありがたい。安心した。」とおっしゃるご家族が凄くたくさんいます。またご利用者は、始めパソコンに話しかける事に適合できるかどうかを心配していたのですが、全然すんなりやってますね(笑)めちゃめちゃ楽しんでいます居室からすごい笑い声が聞こえたりします。オンラインでは触れたりはできませんが、コミュニケーションはちゃんと取れて楽しまれている事が分かるので、顔が見られて会話ができる事が大きいのだと感じます。

ご利用者がご家族とオンライン面会している様子。
坂野施設長

あとは、オンライン面会の技術を使って色んな事が出来ると分かった点も大きな収穫です。オンライン面会をきっかけに「会議もオンラインで出来る!」「フロアでYouTubeが観れて、音楽が聴ける!」など、付随したメリットがたくさんある事に気付きました。外部との会議も効率化されました。目黒区の施設長が集まる会議もズームでやり始めたのですが、私の場合はオンライン面会のノウハウがあったから直ぐに適合できました。

更に外部の業者さんの対応も効率的になりましたこれまでは電話で「一度ごあいさつに伺わせて下さい」と言われると、一度は会わなきゃいけない感じもあったのですが、今は、まず資料を郵送して頂いて、もっと詳しくお聞きする際はオンラインで話が聞けるようになりました。無駄に会わなくて良くなり、効率的に対応ができるようになりました。

「オンライン面会の技術で色々な事ができる」と語る坂野施設長。
今回のインタビューもズームで実施している。

④今後の展望

オンライン職員研修やオンライン地域交流の実現へ

タダカヨ佐藤

今回整えたITインフラの「今後の展望」を教えて頂けますか?

坂野施設長

施設内と施設外で、それぞれ考えている事があります。

まず施設内では、オンライン面会の技術を「職員研修」や「職員会議」にもっと使っていきたいと思います。

いま自主的に勉強会を企画してやってくれている職員さんもいるのですが、そちらでもズームを活用していきたいと思います。今後研修は、全員集まってやる時代じゃなくなってくると思います。そのため、いまネットで研修に役立つ動画を探したり、駒場苑独特の取り組みは自分たちで動画を撮影して全員で見られるようにする事を考えています。また職員さん同士の会議や委員会にもズームをもっと活用していきたいと思います。

坂野施設長

施設外では、ご家族“以外”の方たちとのオンラインでの交流を行いたいと考えています。

ボランティアさんや地域の方とオンラインで繋いで、スクリーンに投影してレクを行うなどの楽しい企画を実施したいと思っています。いまどこの施設もそうだと思いますが、コロナの影響で組織が閉鎖的になりがちなので、コロナ禍であっても外部の目を一杯入れて健全な組織運営を行っていきたいと思っています。

駒場苑では、いまアウケアさんと一緒に、駒場苑に対するオンライン質問会などを開催していますが、今後はオンライン施設見学会なども行って、駒場苑に興味のある方が施設の中の様子をオンラインで見られるようにできたらいいなと考えています。

タダカヨ佐藤

最後に、これからWi-Fiの整備やオンライン面会を始める施設に対して、一言メッセージを頂けますか?

坂野施設長

正直、面会はリアルで出来るならそれが一番いいと思っています。オンライン面会をやり始めた今もそう感じます。オンライン面会は、リアルの面会とそこまで大きく変わらないとは言え、やっぱり直接会って触れたい、手を握りたいという気持ちを満たしてあげたいと感じています。

けれども当面は、厳しい時期です。ご家族も守りたい、ご利用者も守りたいと考えた時に、オンライン面会はすごくいいツールだと思います。またコロナが落ち着いた後でも、例えば暑い時期に熱中症のリスクを抱えて面会に来る事や、暑いが故に施設への足が遠のいてしまう事を考慮すると、コロナとは関係なくオンライン面会ができる体制をいまの内に作っておく事は大切だと思います更に、今後、ご家族側の調子が悪くなって施設に来る事ができなくなった時なども、オンラインならお会いする事ができます。このように、オンライン面会の技術には色々な可能性を感じています。費用も工夫すれば全然かからないので、ぜひ始めてみる事をお勧めします。

坂野施設長

また、役職者ほど社外の方と接する機会が多いと思いますが、ームを活用できるようになると、仕事の効率がめちゃくちゃ上がります会議もわざわざ集まる場所に行く必要がなく移動時時間が浮くので、その時間を別のことに使う事ができます。役職者は、比較的年配の方が多いので、IT活用に苦手意識のある方も多いと思いますが、ズームはとてもシンプルで使いやすいので、本当にお勧めです。

タダカヨ佐藤

貴重なお話ありがとうございました。


坂野 悠己

Sakano Yuki

プロフィール

東京都目黒区にある社会福祉法人愛隣会総合ケアセンター駒場苑(特養駒場苑、ショートステイ駒場苑、デイサロンこまば、グループホームこまば、ヘルパーステーションこまば、ケアプランセンターこまばの6事業所)の施設長。その実践を支える職員のための人事制度や仕組み作りを日々試行錯誤している。Twitterはこちら

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